老いらくの恋

「わたし なんだか 最近 年取ったなーって 思う。」

母が しみじみと言う。
母は八十三才になった。
スペインに来た時 七十八。

「あのね 今だから 言うけど・・・。
笑うよ
きっと。
すっごい 笑うよ。

わたしね あなたと エンリケさんが仲良くしてるところ見ながら
ちょっとねー 想像してたの。」

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「わたしにも ああいう 運命の人が急に あらわれるんじゃないかなって。
ある日 歩いてると むこうから やってきて こう言うの。。。
『ずっと ずっと あなたが いらっしゃるのを待っていました』 って」

「でも ママ スペイン語わかんないから わかんないじゃん」

「でも わかるのよ。 だって それは 運命のことばだから。
わたしのことをじっと見ている その視線で すべて わかるの。
で それは 確信に近かった。 きっと きっと その人はやって来るって。
でもね 80をさかいに 急にそんなこと ないなって」

そう言って けらけら 笑う。

「でも ママ 来たのかもよ。
でも きっと ことばか゜わかんなから 気づかなくて 道を訊いてるんだと 
思ったのかもよ。」

「道 訊かれた時は わかるわよ。
ちゃんと メルカドーナって スーパーの名前が聞こえたし
指さしたら にこにこ して グラシャスって
言ったもの。
でも もうね そんな想像もできないくらい 年とっちゃっちのよ。」

「日本にいたら 恋愛したかなー?」

「老人ホームとか すごいらしいわよ。
三角関係とかで 一人の女性をめぐって ナイフで刺したり・・・。」

「つまり ママがスペインに来て 悲劇が いくつか減ったと・・・」

と 言いながら けらけらと 笑ったのでした。

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「広島のおばちゃんが 七十の時 うちに電話して訊くのよ。
 『てるちゃん 七十で恋愛できるかなー?』って。
 わたし その時 62で パパが退職して ずっとずっと くっついてきて
どこに行くのも いっしょ で たまに 一人で出かけたいとか 思ってた 頃だから
もう 恋愛なんて ばかくさいこと 訊いてきてからに
と 思ったのよ。
だから あっさり ないっ て 答えたの。
今ね わるかったなーと 思ってる。
ちゃんと 話してみたらよかったな。
あのとき たぶんね 山下さんから手紙が来た頃だったのよ。」

広島のおばちゃんというのは 母の八歳年上の姉。
四十の時 未亡人になって 女手一つで 三人の子供達を育てた。
山下さんというのは おばが 女学校を卒業した頃 東大に行っていて
ほのかに好きだったけど お互いに 何も言わず そのまま おばは結婚してしまった。
結婚が決まるまで 東京から 何度か電話がかかってきていたが
それは 戦前のことだから まわりがどうにかしなければ 発展しなかったのだろう。
東大に行ってるような人なのだから 祖父母はたとえまだ学生でも きっと 喜んだのではないかと思う。
でも 山下さんは 結婚を言い出す勇気がなかった。
その山下さんが 七十を過ぎて 手紙を送ってきたのだ。
ずっと ずっと 好きでしたと。
おばは 現在 90を過ぎて 少し認知症。
施設と家を往復しながら生活している。
おばの息子がある日 山下さんの手紙を 母に送ってきたのだ。
それは どういう意図で送られてきたのかわからないけど
たぶん 過ぎ去った日の母親の秘密をひとりで 携えているのが苦痛だったのかもしれない。
母親の最後の甘い思い出。
90のおばは きっと 施設の中の70才くらいの人たちの恋愛などを
見て あのとき 思い切って 会いに行けばよかった と思ったりするのだろうか。

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やぎです。
ほのぼの




余談になりますが

33の時 八年つきあった恋人と彼の女友達と飲んでた時
わたしは ふと つぷやいた。
いや つぶやいたというものではなく 嘆息まじりに 詠じた
と言うべきか。

「恋愛したいなー。
心がきゅんーーーっ となる恋愛がしたい。」

恋人は八歳年下だったから 彼の女友達も 八つ下。
25才の彼女
「やれやれ いくつになっても・・・」
と 言う。

そう いくつになっても なんです。

34才になる2ヶ月まえの2月11日 現在の夫と 恋に落ちてしまったのでした。

恋愛は疲れます。
なかなか たいへんな日々でした。
あれから すでに 16年。
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Commented at 2010-07-26 08:35
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by tokkun-22 at 2010-07-26 09:55
そうか、80まではまだ間があるから、もう少し恋愛願望を持っていてもいいかな。
せつない、っていいよね~。
でも最近は自らの容姿に、その願望も失せつつあります。
Commented by ringo at 2010-07-26 18:46 x
お母様お元気そうで嬉しくなりました。実は・・・5年前、娘がスペインの人と結婚したいと言い出し、シャカリキになって反対しながらも、スペインで暮らぃている日本人の様子を知りたくて、あちこちのブログにお邪魔していたときに、78才のお母様がスペインで暮らすことになったという記事を読んだのです。娘のカソルラさんがいるとはいえ、大変な決断をなさったのだろうと思うと、自分のもやもやした心配がバカバカしくなって・・・・・
娘はスペインに行って、4年経ちました。大変なことも多いようですが、それなりに逞しくやっているようです。娘の所に行ったときに、カソルラに連れて行ってもらいました。緑の深い、雄大な地に住んでいらっしゃるのですね。
お母様の運命の人、これから出会うのかもしれませんね。ブログ拝見する楽しみがまた増えました。

Commented by cazorla at 2010-07-27 06:58
鍵コメさん
それ 知ってたよ。 最初のは それ 思ってなかった。
でも そういうことになってたのは 知らなかった。
なんにもできなくて ごめんね。
Commented by cazorla at 2010-07-27 07:00
とっくん
きゅんっ となる あの気持ちね。。
いいよね。
容姿・・・ とっくん 理想が高すぎるんでしょう きっと。
活動的なあなたですもの
ひそかに 思ってる人がいるかもよ。
Commented by cazorla at 2010-07-27 07:03
ringoさん
こんにちは お嬢様と こちらにもいらしたんですね。
四年目 なれてきて その一方で 疲れてきたり
そういう時期でしょうか。
でも いやなことって 日本にいても スペインにいても
あるよなーと 自分に言い聞かせて すごしています。
外国人として住むって ある意味では 楽ですよー。

母の運命の人 あはは どうでしょうねー。
Commented at 2010-07-27 23:27
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by chico at 2012-05-24 00:26 x
はじめまして♪
chicoです。
スペイン brog というワードでネットサーフィンをした結果カルソラさんのbrogに辿り着きました。
カルソラさんの選ぶ言葉の知識や選び方が、私にとってとても新鮮で
楽しく読ませて頂いています。
それにしても素敵なお母様ですね。
私は今、自分にとって複雑な恋愛をしています。
けれど、逃げ出したいという感覚はありません。
正直に向き合っていくだけです。
恋愛は生きる事、一生心に恋する気持ちがありますように。
彼には恋愛は二の次だと言われます。
でも私は恋愛至上主義者です。

カルソラさんにスペインで偶然に逢えたらな!と思っています。
Commented by cazorla at 2012-05-24 08:10
chicoさん
はじめまして。 古い記事にコメントありがとうございます。 読み返して ああ そうだったな と しみじみ思いました。 母も少しずつ年取ってきていますから。 
わたしも 恋愛至上主義です。
恋してなきゃだめです。 そして逃げるのもだめ。
そうやってると一年すぎ 二年すぎ 時間のむだって言う人もいる。 でも そんなに深く考えるたり 不幸な気持ちになるぶん すっごい幸せを味わえたり。
百冊の本より すてきな体験です。
知りあえてうれしいです。
ありがとうございます。
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by cazorla | 2010-07-26 05:19 | スペイン年金生活 | Trackback | Comments(9)