一人の部屋

公平な意見を言えば 母は父にそんなに親切ではなかったと思う。

父は 母より4歳年上だった。

屈強な病気しらずの男であった父は その特徴を持ち続け つまり 病気になった時

それと付き合う方法を持たなかった。

かなり 怖がっていたと思う。

多分 60になって 胃がんが発見され 二度手術をした。

大食漢であったから 胃に癌ができるのは当然と言えば当然であった。

二回目の手術で 胃を完全に取り除いてしまった。

そのあとも 食欲が特に減退したとは 言えなかった。

やはり 恐怖が心の安定を崩してしまったのだろう。

ある時期から 幻視が始まった。

虫が這っている。

爪の間から 虫が出てくる。

足の爪から。

爪を一日中 切っていた。

クリームをなすりつけ 爪を切り

スリッパや床をべたべたにしていた。

ふと ミミズさんの記事を読んで思い出した。

幻視。

まるで アルコール中毒患者のように 虫が見える。

それは アルコールを わずかでも口にしていた人たちの

共通項なのだろうか。

母はそういうことに寛大ではなかった。

ちっとも寛大ではなかった。

父は 母の誕生日に亡くなった。

『今日は 私の誕生日よ』

と 言った時

頭がちょっと変になっていた父が その瞬間には

とても普通で とても優しく笑って

おめでとう と言って それから急に息ができなくなって 亡くなった。

これ以上 母に迷惑をかけないための 誕生日のプレゼントのように

静かに 突然 死は訪れた。

母は 父とは違って 幻聴がある。

母の家の上は ペントハウス(アティコ)で そこには 65歳をちょっと超えた女性が住んでいる。

女性は かなり厚化粧で 恋人が いや ボーイフレンドが 数人いる。

一人は 背の高い トルコ人で 駐車場の指定されてない場所に車を置くので有名だ。

それから 歳をとった スーパーマーケットに一緒に行くボーイフレンド。

それから。。。。

まあ いい。

そういう風に いつも 男たちが そこに来る。

時として 彼女がいないので タバコをふかして その吸殻が母の家の前に落ちる。

ペントハウスのベランダで 男と話す声がうるさいと母が言う。

母は もう 耳が遠いので そういう声は聞こえないと思うけど

そうそう 彼女はモテるから とか 適当にいう。

お向かいの夫婦の夫婦喧嘩がうるさいという。

道は 普通の車道で 歩道もあるから かなり距離がある。

おまけに今は 寒くて 夜は 窓を閉め切っているので 聞こえるはずもないけれど。

私は 話しかけても 聞こえないことが多いのに 母は 聞こえない声を聞いて 不愉快になったり

楽しくなったりしている。

できれば 楽しい幻聴だけを聞いて欲しいのだけれど。


母は 若い時 シャルルボワイエが好きだった。

日本映画はほとんど見ず 洋画ばかりを見ていた。

そんな母だからか

母は スペインに来る前に ちょっとだけ 期待したというのだ。

恋人ができるかもしれない。

大きなバラの花束を持って 現れる恋人が。

スペインに住み始めて 2年目に 話してくれた。

『バカね。 言葉もできないのに そんなに簡単に 恋人ができるわけないわよね。

若かったら また 別だろうけど 歳をとっての恋は やっぱり 

話して楽しい相手 と ってことになるわよね。』


だから 幻聴は 上に住む女性の恋人とのむつましい会話であったり

お向かいの夫婦の口論だったりするのかもしれない。


一人の時間が多すぎるのだ きっと。

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Commented by liebe at 2016-02-03 20:16 x
私の母も耳が遠いの。横で鳴る電話の音も聞こえないくらい。でも悪口は聞こえるらしい(笑)母も父が亡くなって独り暮らしの時、容姿も性格も崩壊していった。けど拒否していたヘルパーやディサービスに行くようになり一時若返ったの。身なりを気にし始めたの。半年も入浴拒否した人がね「ブラ買ってきて」って今までブラなんかしてなかったのに(笑)娘だけじゃ難しいよね。脳って、常にお喋りしてるから独りでいる時間が長くて、耳が遠いと解らなくなるんだろうなって思う。誰か○○さんって訪ねてきたら違うのにね。
Commented by おーやま at 2016-02-03 21:53 x
お父さんを看病したお母さんでも、幻聴の罠にはまってしまいますか。
お父さんが幻視があったから、私もアレか?とか まあ、思わないよね。
ショッキングな話ではあります。
かそるらさんがプールかよって散歩して、家族とみかんとがっちり繋がってないと引っ張られそうになるのが心配。私もかそるらさんを健全な世界につなげるロープの一本として働きたいと思います。手と手をガシーン。

どうでもいいことだけど、その幻聴は、何語で聞こえるんですかね?
日本語なら 幻聴だとはっきりするけど。
Commented by cazorla at 2016-02-04 05:33
> liebeさん

時として 被害者妄想みたいなのもありますね。
窓から ピソの庭(共用スペース)を見ていたら 睨まれた とか。
スペイン人 目がでかいから 笑ってないとそう見える
かもしれない。 でも そんなに悪意を持つほど興味を持つ対象ってわけでもないし
ただの婆さんなんだから〜なぁんて言うと叱られる。
ははは
補聴器を買おうかと思って 専門家に相談したら 本人が 聞こえてると思ってる場合
侮辱されたような気分になって 怒り狂う場合があるので本人とよく相談しなさいって言われました。 そういう場合もあるんだって。
これから 勉強ですね。 年取った母親の心理。

今 肩掛け編んであげてます。
身なりというか 何か 楽しくなるものを身にまとったら また違う気持ちになるかなーって。

Commented by cazorla at 2016-02-04 05:37
> おーやまさん

クー 思わない。 だって 信じてるもん。 聞こえるって。
スペイン語だとは思えないんだけど なんか ごにょごにょとわからない言葉が聞こえるらしい。
今日は 機嫌よくて みかんとも遊んで 楽しげにしてました。
鳥なんか 飼ってみるというのも考慮中。
生き物のいる風景って 癒されるかなーって。
花は毎日 どっかから摘んできたりしてます。
Commented by liebe at 2016-02-04 18:32 x
補聴器。そうなの。病院の検査結果(無理やりだった)は8割聞こえていないと医者に言われても信じなかったの!補聴器は一度も使われなかった。前歯全部無くなって大騒ぎしたから歯科医に連れて行っても(無理矢理ね)入れ歯拒否、治療拒否(笑)家の場合は極度の“かまってちゃん”問題を作り出すんだ、無意識に身体がね。その症状の裏にたくさんのメッセージがありました。わかってあげられなかった。病院に勤めていたし介護の勉強もしたけど、母には役にたたなかったの。母という人と向き合うしかないんだろうね。
Commented by mimizu-clone at 2016-02-04 23:40
登場人物が何語かわからない言語をしゃべってる夢なら見たことあります。
きっとどこかで聞いたことのある言葉なんだろうとは思っていますが、それはさておき。
何語でしゃべってるのかわからないのにちゃんと通じるてんですよね。

年をとったり病気になったりすると特別な能力を手に入れることができるのかもしれません。
理解できる世界の範囲が広がるみたいな。
だから、逆に、周りには理解できなくなってしまうのかもしれません。
Commented by cazorla at 2016-02-07 06:24
> liebeさん

血が繋がっていると 違うメッセージというか
違う何かを求めてくるんでしょうね。
で こっちも 長年知ってる母として こうあるべき
とか こう考えてるはず という 気持ちがあって 見えるべきものが見えなかったり。
でも 本当 歯にしても 耳にしても 機械とか代替品で問題は解決できるとか
そういう単純なものじゃないんですよね。
しっかり向き合っていかないといけませんね。


今日 車椅子 届きました。
家の中だけど ちょっと動いて  liebeさんがおっしゃったように押してみたら
結構 足が動いて喜んでました。
Commented by cazorla at 2016-02-07 06:26
> mimizu-cloneさん

手がかかるけど 子供じゃない。
超えてる人。 違う世界で。
昔 長老として称えた時代があったけど 歳をとってるからわかることもいっぱいあるのでしょう。 耳を傾けなくては。。。ね。
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by cazorla | 2016-02-03 03:25 | 思うこと | Trackback | Comments(8)