90歳の読書ノート

6月20日に母は90歳になりました。
大台の乗る時はいつでも少しエネルギーがいるようです。
19歳の時は、かなり期待を持って。
29歳は不安と倦怠感を持って。
39歳は諦めとふてぶてしさを持って。
49歳は半世紀生きたことの感動と老への不安を持って。

私はここまでの大台体験しか持っていませんが、母は79歳の時、スペインに住んでいました。
その時、母が言った言葉。
「やっぱり、言葉ができないとロマンは生まれない。」

ちょっと期待していたようです。
シャルルボワイエのような人の登場を。
今、当時の母の写真を見るとやっぱり若かったなと思います。
79歳なんて、実はまだまだ若いのです。

母は本を読むことで孤独と折り合いをつけています。
藤原周平がお気に入りです。
時代物を書いていても、藤原周平は母と同い年。
同じ年に生まれたものがもつ、共通の心情、考え方、感性があるのでしょう。

もちろん、私も藤原周平さんの小説、大好きです。

大使館には図書館があります。
勝手に借りて、ノートに借りた本の名前を書いて持って帰るだけ。
好きな時に返しに行きます。
私はマドリードから、4時間以上のど田舎、それも車と列車を使って行かなくてはならないところに住んでいるのでしょっちゅうはいけませんから、たくさん借りて、そして3ヶ月間借りっぱなしです。

そうやって、色々な本を母と一緒に読んでいます。

90の大台に乗るにあたり、母は結構気弱になっていました。
もう一度一人でお風呂に入れるようになりたいと願っていましたが、それは無理なようだとぽそっと言いました。

その年にならないとわからないことはいっぱいあります。
息子がある日、私にききました。

「ママ、死ぬのは怖い?」
「怖いよ、だってまだ一度も死んだことがないから。」
「僕も怖いな。
ママ、他に怖いものがある?」
「年を取っていくのも怖いね。
まだ、一度もおばあさんになったことがないから。」
「それは大丈夫だよ。僕が一緒にいるから。」

年を取るのは怖いなと思う時があります。
軽く体をさわってみると、今まで気づかなかったけれど痛いところがたくさんありました。
いつの間に、こんなに痛いところが増えたのだろうと。
随分、長い間、自分の体に向き合ってなかったなと。

あ、そうだ、母の話でした。

母は、少しずつ、老いを受け入れてきたのですが、それでも90の大台に乗るに当たって、かなりしんどかったようです。
乗れないかもしれない、という時もあれば、乗りたくない、という時もありました。
そして、とうとう乗ってしまって、6月、ちょっと暑かったこともあって、しんどくしていました。

ところが最近、スタインベッグを読みたいと言い出し、「怒りの葡萄」を読みました。
モーパッサン、E・ブロンテ、トルストイを読み、夏目漱石を読み始めました。

「100年後も読まれている小説というのは、やはりあらすじが面白いだけじゃないの。
そこには魂を強くしてくれるものがある。
読んでいると体の中に力が湧いてくるのを感じるのよ。」

それが文学のすごいところなのでしょう。

e0061699_23063437.jpg

経験するってこともすごいこと!






[PR]
トラックバックURL : http://cazorla.exblog.jp/tb/25955687
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。
Commented by sukhumvit-asok at 2017-08-03 22:34
私の母は88歳。
いくつかの病気をしてしまい、田舎で介護施設に入っています。
目も悪いので本を読むことはもうほとんどできません。
90になって本を、しかも文学を読んで感想が言えるなんてなんて幸せなことでしょう。
前向きなことができるのは、歳は関係なく若いってことだと思います。
スクムビット
Commented by TAKE○△ at 2017-08-03 22:54 x
お母様、90歳になっても本を読むって凄いですね。
スローライフな環境での暮らしも若い秘訣なのでしょうかね^^
私の母親はまだ90前ですが、去年大腿骨を折って完治せず寝たきりになってしまいました。
離れて暮らしている事も有ってか余計な心配ばかり嵩んでいるような・・・
何かと大変な事も有るでしょうが、お互い一緒に暮らしているのが良い事かなと。
Commented by cazorla at 2017-08-04 01:09
> スクムビットさん

78歳でスペインに来て、友達もなく、テレビも時間限定のNHKニュースくらいなので、きっと本くらい読めるようにと、神様が目だけは悪くならないようにしてくださったのかもしれません。というか老眼が遅かったのです。50代、60代も老眼鏡なんてお年寄りが使うものよなどと。もちろん私は40歳から老眼鏡を使っております。

本当に本を読んで感想が言える90歳は幸せなことだと思います。おかげでつきっきりでなくても良いというのも。

お互い、親孝行しましょうね。遠くにいても、心に止めておくだけで十分親孝行だと思います。
Commented by cazorla at 2017-08-04 01:15
> TAKE○△さん

78歳の時にこちらに来てもらったのはやはり、何かあった時に心配のタネを作らないように。言ってみれば、私の都合で母は友達のいない生活をいきなり始めたわけです。まだまだ5年くらいは友達の家に行ったりして雑談を楽しんだり旅行したりできたかもしれないのですが。

今はもちろん近くにいるので見に行けて良いのですけれど、幸せな5年間を奪ってしまったようでちょっと心苦しいのです。それでも最近前向きになってくれて嬉しいです。

母も88歳の時、一度車椅子になったことがありました。楽しいものをたくさん見せてあげてください。大好きだってことも、ちゃんと伝えてください。わかりきっていると思っても親ってやはりわからないのです。余計者だと思ってるのではないかと心を痛めています。

実は私も。子供達がどう感じているのか。
Commented by NT at 2017-08-08 01:12 x
大使館に図書館があったなんて・・・
知ってたら人生違っていたかも、ってオーバーですけどね(笑)
80年代にスペインという国そのものに恋をしてしまって、なんとかしてスペインで暮らしたいと
考えていたんですが永住権の取得の難しさもありましたけど活字中毒なんで本が無いと生きていけない。
それで諦めた部分が大きかったかな。
ロンドンだと日本の本の古本屋がありましたけど、でも定価より高く売られてましたからね~
大使館の図書館は現在もお母様をはじめ多数の方が利用されていると思いますが
ネットもアマゾンもkindleも無かった時代には一種の命綱になったんだろうな(←またまたオーバーな表現ですみません)
Commented by hanaco at 2017-08-09 01:30 x
私、藤沢周平さんの生誕の地、山形県鶴岡市のとなりの酒田市に住んでいるんですよ。
嬉しいな。私も大好きです。
好きなのは、清左衛門残日録というの、あれ、ちょっと題名違ったかな・・・。
あと、映画にもなった、たそがれ清兵衛。
結構、映像化されていて、本を読まない人も、
ゆかりの地だと言って、観光に訪れます。

読書、私は好きですが、娘は、今は、それどころじゃなく、
でも、きっと、私を見て育ってるから、いつか読むようになるんだろうなぁって。
Commented by cazorla at 2017-08-09 11:47
NTさん

大使館の図書館。帰国する人が置いていった本たち。ノートがあるだけで、自分で借りる本の名前書いて持って行く。返すときは、返却って書くだけ。こう言うシステムってとっても日本でしょ?日本性善説。このシステムに日本を感じるの。

ハワイにブックオフできたそうですね。日本みたいに安いのかなー。
最近、荷物が届かないから、アマゾンで買うのも躊躇しています。
どうしたものか。

いやー、オーバーじゃないですよ。
本当に本は命綱。
Commented by cazorla at 2017-08-09 11:51
hanaco さん

山形の詩人阿部岩男さんに詩を習っていました。山形は文学的な場所ですよね。月山とかあるし。
藤沢さんの親戚という人もここにたまに来られる人でいます。なぜかゆかりの人が多い。
いいですよね、藤沢周平。日本の男ってこうだよね的なものもいっぱいあります。本当は純で妻思い。

うちは娘は読みすぎくらいですが、息子たちは全く読まない。
いつか読むようになるでしょうね、と信じたいです。
携帯でSNSが忙しそうでね、ブツブツ
名前
URL
削除用パスワード
by cazorla | 2017-08-02 23:07 | スペイン年金生活 | Trackback | Comments(8)