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でも ただ夢を見ましょう

1946年生まれのティム・オブライエンがベビーブーマーの同窓生再会の話『世界のすべての七月』を書いていて、49年生まれの村上春樹が翻訳している。
原題 July July.

内容は こちらのページにあるように『2000年7月、ミネソタ州ミネアポリスで、1969年に当地の大学を卒業した学生の30年ぶりの同窓会が開かれた。この小説の主人公は、そこに集まった10人余りの男たち、女たち。同窓会で30年ぶりに顔を会わせた彼らの現在と、それぞれに秘められた過去とがフラッシュバックしながら、群像ドラマが進んでいく。』

その中のマーヴ・パーテルとスプーク・スピネリのエピソードが好きだ。
スプークは ちょっとセクシーで 大学時代から マーヴは彼女が好きだった。
そして とても誠実な友人である。
それでも この同窓会で どうにか一線を越えたいとも思っている。
スプークも そのあたりは わかっていて そうなってもいいかな と思っている。
しかし やっぱり 素敵な人と話し込んだりして 時間切れ。
マーヴは 飛行機に乗って帰らなければならない。

スプークとマーヴは 「サム・デイ (いつか)」と言って別れるのだが

「ああ サムデイね。」とマーヴは言った。「そいつは深くて暗い秘密だもんな。俺にだってわからないくらいの秘密」
「あなたは信じてないのね?」
「信じてないみたいだ」
「ほんのちょっとのあいだだけでも?」
「無理だね」
「それはなんというか」とスプークは言った。「ちょっと問題だわね。 つまりあなたが私という人間を信じてないということだから。」
「信じたいとは思ってる」
「じゃあ 信じるように努力して」
「それはもちろんできるさ。やろうと思えばね。」とマーヴが言った。「でもね 君は自分の口から 来るべき結末をはっきり言っちまったんだぜ。 そこにあるのは 心の痛みだけだって」
「私がそう言った?」
「そう言ったよ。はっきりと 声に出して」
スプークはその問題について しばらくむずかしい顔で考え込んでいた。「わかったわ。たしかに私は真実を口にしたみたいね。でも それは いつか、どこかで、なんとかして、という可能性を排除するものじゃない。私が全人格を変えてしまったらとか 八百歳になったあかつきにはとか」
「まあ そうなったときにはね」と マーヴは言った。
「私はただ希望を持ち続けたいの」


「私はただ希望を持ち続けたいの」とスプークは言った。

そのあと 飛行機にマーヴは乗るのだが スプークは 飛行機をキャンセルさせたい。
なぜなら なんとなく墜落しそうな予感がするから。
それでも マーヴは 飛行機に乗る。 すると 突然 スプークが 乗ってきて隣に座る。
マーヴは どうして飛行機に乗ってきたのか スプークに問う。

「ただ そういうフィーリングがあったのよ」、スプークは素早く、照れたような視線を彼に投げた。「口では説明できない。このもの悲しい、ぞっとするような感覚。とことん奇妙で、とことん恐ろしいの。 まるで飛行機が墜落することが前もってわかっているような。」
「じゃあ なんで乗ったわけ?」
「そんなこといちいち聞かないでよ。わかりきっているでしょうよ。」
「君にはわかりきったことかもしれないけど、僕にはわからん。」
「私がそうすれば、それは 起こりっこない からよ。」とスプークは言った。「何ものも私を傷つけることはできないの。私が自分自身を傷つけないかぎりね、」彼女はそこで話しやめた。どこかにふらふらとさよっていきそうに見えた。「それがあなたへの答えかもしれない。」


私はこういう自己中心的な女の人がたまらなく好きだ。
そして私もふらふらときっと飛行機に乗ってしまう。

そして いつか ロマンチックなところへ連れて行ってくれるのかしら とスプークは 聞く。

「そういうことを考えるのは素敵だ」とマーヴはやっと口を開いた、「現実には起こらないことだけど」
「そうね」とスプークは言った。「でもただ夢を見ましょう」


55歳のスプークとマーヴ。 
年を取ったらとったで 私たちはたくさんの拘束ができてくる。
それでも 夢を見るのはすてきだ。

そういうことを考えるのは素敵だ、 現実には起こらないことだけど。

あなたの座席の横に座っている私。

世界のすべての七月 文芸春秋社 は ベトナム戦争を知らなくても ベビーブーマーでなくても そして団塊の世代でなくても ドラッグをやらなくても きっと 共通要素を見つけられると思います。

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Commented by antsuan at 2007-02-04 22:45
夢の入り口って、男と女が見詰め合った瞬間なんでしょうね、たぶん。
Commented by maron415 at 2007-02-04 23:57
<誰が非難してもしなくても、それと無関係に世界は回り続けるっていうことだ。>
村上春樹さんの本じゃないけれど、
村上春樹さんの世界だわと思ってしまいました。

それと、
アメリカの7月って、日本の3月の感じ?
Commented by seilonbenkei at 2007-02-05 00:27 x
「私が自分自身を傷つけないかぎりね」がcazorlaさんの原点なのかな。
そう考えるとき、熊は隣にいますか?
Commented by miki at 2007-02-05 01:40 x
この本、ぜひ読んでみたくなりました!探してみまーす。

今、私が読んでるのは、Jorge Bucayの本なのですが、その中のとあるストーリーに
Nada da mas certeza que el deseo....(続く)
という1行があります。「希望を持ち続けたいの」という言葉で思い出されました。
世の中、希望で溢れて欲しいものです。


Commented by eaglei at 2007-02-05 05:21
この書評、僕が好きな川本三郎が書いたものかと思ってしまいました。
こういった本を、いっぱい紹介してくれます。

つい、読みたくなってしまいますよね。
Commented by cazorla at 2007-02-05 05:23
アンツァン 昔は17歳より上になると恋なんてしないと思っていませんでした。
そのあと20代の時は30代なんて と思って・・・
でも いくつになっても胸はときめきますね。
Commented by cazorla at 2007-02-05 05:28
マロンママさん アメリカ 広いので 日本の3月・・って北のほうはそうなんでしょうか?
マイアミあたりだと なんか暑そうですね。

村上春樹を読む一方でよく ジョンアーピングなんかも読んでました。
やっぱり重なっていく物がありますね。
Commented by cazorla at 2007-02-05 05:29
セイロンベンケイさん 原点というか理想です。
でもよく傷つきます。 でも傷ついたと思うとしゃくなので 知らん顔してます。
すると 熊のかっこうをしたくなったりします。
Commented by cazorla at 2007-02-05 05:31
みきさん いくつになっても結局そんなに変わらないんだなーって思ったら お読みください。 よくないという人もけっこういるのですが
ティム・オブライエンって 批判ばかりされて一度 書くのをやめてるのです。
で そのあと 幸せな結婚をして また書き始める
その時「この年になって プロボーラーにもなれないし・・」と 言ったの。
なんとなく 不器用そうで好きです。
Commented by cazorla at 2007-02-05 05:32
eagleiさん 本屋で 無料でもらう雑誌が好きでした。
そういうのを見ながら この本はどんなんだろう って想像したり。
全部読めるわけでもないけど
書評って そういう意味で楽しいですね。
Commented by fumiyoo at 2007-02-05 09:19
30年前の自分と現在の自分の像のズレをうまく受け入れることができずにいる。・・・これは愛する人の体の中で浄化していった。
安楽な暮らしをして、どこがいけないの?・・・これも、友人との会話にあった。でも、現実の「いのち」の誕生で自分の内面を変革していった。

誰もがそれぞれに痛みを感じ、それぞれにちょっとした傷やへこみやらを抱え込んでいる・・・これは大切な「お守り」消してはならない。
私は何時も傍で「感じてきた。」
自惚れかもしれないけれど、生きている「愛」の中で世界は変わる・・と希望を持ちたい。
決して「あの時代」は無駄でなかった。大きな時代であった。皆が自分の事よりも「社会」に目が向いていた。「社会」の為に生きようとしていた。これは大変な事だったんだ。
そんな彼らが私は愛おしい。
Commented by cazorla at 2007-02-05 16:06
ふみよさん あの時代の人たちはよかったです。
そのあと少しも。
そしてそんな時代を共有してるからずっと良い関係。
物語があるのだと思います。

軽いフェミニスト おしゃれなエコロジストしかいない 今 という時代。
Commented by maron415 at 2007-02-05 19:13
すみません、言葉足らずでした。
日本で卒業って言ったら3月ですよね。
で、アメリカの卒業って7月よね。とらえかたが日本と同じなのかなあと思っただけです。
Commented by cazorla at 2007-02-05 21:14
マロンママさん あっそうですねー。
9月に始まりますよね。 日本以外かな?
新学年の始まる前にながーーい 休みというのは いいと思うんだけどね。

そうですね きっと 卒業式のこととか思い出したり
その時がファースト・キスの思い出とか
いろいろあるのでしょうね。
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by cazorla | 2007-02-04 08:38 | おすすめのもの | Trackback | Comments(14)