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誕生日のものがたり

バースデイ・ストーリーズ
レイモンド・カーヴァー / / 中央公論新社
ISBN : 4120033414
スコア選択: ※※※※※

10人の作家による10の短編

そして 村上春樹の書き下ろしが一編

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この短編集のいちばん最初に出てくる物語。
「ムーア人」 ラッセル・バンクス作

五十になる「私」が  セレモニーで ちょっとした劇をやったあと 友人2人と「グリークス」に一杯ひっかけようと入っていく。 そこではある家族がバースデイを祝っている。 八十歳の誕生日。 老女と彼女を囲む息子夫婦と孫達。
彼女は 「私」をじっと見ている そして呼びかける。
彼女は「私」が二十歳くらいの時につきあっていた女性だった。
そして 彼女の家族が帰った後で しばらく語り合い そして彼女を家に送っていく。

どう言えばいいのか、わからない。でも彼女にキスしたいと思う。そしてそうする。私は身をかがめ、彼女の体を抱き、唇にキスする。とても優しく。それからまたちょっとキスする。彼女もキスを返す。 そこには 彼女もまた今すべてを思い出しているのだと私にわからせるだけの強さがこめられている。我々はそんな風に長いあいだじっと抱き合っている。


この物語は 実はずいぶん前に読んだ。
で 内心 こういう八十の誕生日は素敵だと思っていた。
ただ これは私にとってはお伽話に近い そんな感じだった。
しかし 先日 母が 八十になって この物語は 八十だから成り立つ物語なのだと思った。
やはり七十ではあり得ないのだ。
妬みや欲と 完璧 決別してしまった この時代に。
そして きっと 美しい物語 美しい思い出の中に生きているのだろう。
その美しい存在に 人生に疲れた時期の男は やさしい気持ちになる。

そして(彼女が)家の中に入っていく。ドアが閉められた時、私はそのステップに一人で一晩中立っていたいと思う。私の顔のまわりに,雪が雲みたいに降りしきっている。小径に残された我々の足跡を雪で埋めていくのを、じっと見ていたいと思う。でも実際にはもう夜遅いし、明日も仕事をしなくてはならない。だから私はうちに帰る


そして最後は この文章で終わります。
ほとんど 引用だけですが
そのほうが この小説のふんいきが伝わるかなと。

家まで車を運転するあいだ、泣き出すのをこらえるのが精いっぱいだった。時間はやって来て、時間は去り、それを取り戻すことはできない。私は自分にそう言う。私が手にしているのは 今この目の前にあるものだけなのだ、と私は思いを定める。でも降りしきる雪の中に車を進めていくと、私が手にしているものなんてほとんど何もないみたいに思えてくる。私が老女とのあいだに今しがた交じわした優しさのほかは何も。だから私はそのことに心を集中する


「私が手にしているものなんてほとんど何もないみたいに思えてくる。」

人間というのは どこまでいっても自分以外にはなれないものだ。(村上春樹)


昨日 母と公園に行ったら 二羽の雀が キスをしていた。
しばらく 見ていて気付いた。
同じ大きさだけど 母と子である。
子は飛び方を習っている。 しかし 母がまだ 食べ物を与えているのだ。
こういう静かなエピソードを記憶の中にとどめながら 明日を待つ。
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Tracked from 村人生活@ スペイン at 2012-08-16 08:35
タイトル : ムーア人 ラッセル・バンクス
誕生日のものがたりで紹介した ムーア人。 ビデオを見つけたので。  30分以下の短いビデオです。 小説 とても美しいお話なんで是非 読んでくださいね。本のほうがずっとすてきです。 http://www.imdb.com/video/wab/vi1205600537/... more
Commented by はれ at 2007-07-12 11:48 x
いつも見てます。
レイモンドカーヴァーも大好きです。
感じ方がにてるなあと思っています。
あなたと。
ちがうのは行動力。あなたの。
素敵な女性だろうなあ。
応援しています。
Commented by sagimon at 2007-07-12 13:04 x
素敵、じーんとします。
色々なことを経験して大人になっても、心の中のピュアな部分を大切にしていたいですね。

春に、近所の川沿いに桜を見に行ったら、枝の上でハトがよりそっていました。満開の薄ピンクの桜に囲まれて寄り添っているハトにしばらくみとれてしまいました。

両親と出かけていたので、ママとパパみたいね、といったらうふふと笑っていて、幸せだなーと思いました。
Commented by maron415 at 2007-07-12 16:08
50の私が20の殿方に恋するのだろうかと真剣に考えてしまいました。
80の私…やっぱり20の殿方に恋するかもしれない(笑)
Commented by syenronbenkei at 2007-07-12 23:37
物語の引用より、cazorlaさんの一行評の方が訴えてくるものがありますよ(僕にとっては)。
本って、それを見た時に読みたいと思わされるのと、誰かが読んだ感想を聞いて読みたいと思うのがありますね。
どう読んでもおもしろくなさそうだけど、この人がこんな風に読むんなら、同じ読み方ができるかな?と思う時。
人生もそうかもしれません。
同じ生き方なんかできっこないけれど、同じように生きることはできるんだよね。
Commented by cazorla at 2007-07-13 03:07
はれさん ありがとうございます。
行動力は・・ おしりに火がつくまで動かないということはあります。
ただ 自分がしたいことは 待っていられず 早すぎて失敗 ということも。 これからもよろしくお願いします。
Commented by cazorla at 2007-07-13 03:10
さぎもんさん 幸せな家族の中で育ってらっしゃる感じが
さぎもんさんのブログの中にもよく見えてきます。
十代の時は 十代が終わったら ピュアな恋愛はできない
と思っていたけど いつまでもピュアな部分は 持っていられるんだな
と 思います。 人生ってだからおもしろいのですね。
Commented by cazorla at 2007-07-13 03:11
マロンママさん きっと 心が通じ合うことはあるんでしょうね。
二十歳・・・ これも二十五じゃ だめなの たぶん。
二十歳だったからこそ 五十になって八十になった相手に
優しい気持ちになれる のかなーって
19 20 このあたりの年齢の男の子・・・ね。
Commented by cazorla at 2007-07-13 03:14
セイロンベンケイさん 実は 青空文庫で ひとふさの葡萄を読みながら
小さかったあなたのことを思いながら
後ろ姿なんか想像して
おかあさまがふりがなつけたその本の感じとか
そういう映像を頭のすみに置いて
読んだら なんだかとても その本がいとしいものに感じました。
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by cazorla | 2007-07-12 02:24 | お気に入りのもの | Trackback(1) | Comments(8)